宅食

 弁当などの調理済みの品を自宅まで届けてくれる「宅食サービス」が、高齢者などの人気を集めています。外食産業や小売企業も、この分野のビジネスをさらに伸ばそうと力を入れています。人気の秘密や、サービスの内容などを、私、小町が調べてみました。

手間いらず、病気しらず…カロリー・塩分管理 / 豊富な献立

ワタミの弁当を受け取って喜ぶ泉さん(21日、東京・大田区で)=高橋美帆撮影
東京・大田区の泉美津子さん(64)は、平日の夕食が楽しみの一つになっているそうです。居酒屋チェーン・ワタミのグループ会社ワタミタクショク((電)0120・321・510)のスタッフが月曜~金曜日に毎日、日替わり弁当を届けてくれるからだといいます。
 取材に訪れた日のメニューは、サバの照り焼きや、なますなど4種のおかずとワカメご飯。泉さんは「これだけの種類を作るには、買い物も調理も大変な手間。魚料理は健康的だし、大好きなんです」と、さっそく箸をつけていました。
 同社は現在、高齢者を中心に1日20万食を関東や関西、九州などにある247の配達拠点から自宅などに届けています。2年後には沖縄県以外の全国に配達網を広げる計画で、2020年には1日150万食にまで伸ばすのが目標です。
  高齢者向けなので、塩分やカロリーなどは専任の管理栄養士がしっかり計算します。ご飯がついた「まごころ御膳」と、総菜だけの「まごころおかず」は、かむ 力が強くない高齢者に配慮して、煮物などを軟らかく仕上げてあります。中高年向けには逆に食材の歯ごたえを残した「まごころ万菜」を用意しています。
人気の秘密は、こうした気配りに加え、1000種類ものおかずを組み合わせる豊富な献立です。ワタミの外食事業のノウハウを生かし、見た目にも食欲をそそるよう、赤と黄、緑の彩りのバランスにも気を配っているそうです。
 こうしたサービスの老舗である「タイヘイ」も「家庭の味」をモットーに豊富な健康食メニューを用意しています。その数は、担当者が「毎日3食を届けても、違うおかずを2か月は提供できます」と胸を張るほど。とても一般家庭では太刀打ちできそうにありません。

ファミレスの味 家庭で楽しむ

ただ、「健康を気遣いながらも、毎日の手間は省きたい」というニーズは高齢世帯に限りません。
  「すかいらーく」では、「ガスト」など傘下の外食チェーン約830店舗で宅配サービスを行っています。30代の若い家族連れの注文が目立つそうです。子ど もに人気のチーズ入りのハンバーグなど、ファミレスの味を自宅で楽しめるわけです。外食業界の基本は「店舗でお客を待つ」ことですが、「自らお客に近づ く」事業にも力を入れ、今後はパスタ類や高齢者向けの弁当など、宅配の品ぞろえを拡大する予定です。
 セブン―イレブンの宅配事業を担当す る「セブン・ミールサービス」は、配達料金(1回200円)を今春から無料にします。流通網が打撃を受けた東日本大震災を機に女性の高齢者らの顧客が増 え、より頻繁な利用が期待できるからだそうです。栄養バランスを考えた総菜の1週間セットなど、店頭には置いていないメニューが人気です。

顧客の健康に目配り

ワタミタクショク社長 吉田光宏(よしだ・みつひろ)さん
 ワタミタクショクの吉田光宏社長に高齢者向け宅食事業の展望を聞きました。
 ――事業参入の経緯を教えて下さい。
  ワタミは2004年から介護事業を行っていますが、当時の多くの福祉施設の食事は、健康的な献立でも、冷めていたり、のみ込みやすいようにペースト状だっ たりして、外食業界の私たちから見れば味気ないものでした。当社の施設で、見た目や温度、歯ごたえを重視した食事を出したところ、非常に好評で、自宅にい る高齢者にも受け入れられると考えました。そこで、08年に長崎県の会社を買収、営業体制を整えました。
 ――2年後には宅配エリアを全国規模に拡大させますね。
  高齢化の進展よりも速いペースで事業は成長するでしょう。買い物や台所仕事から解放されれば、高齢者は自分の時間を大切にできるのです。当社は地域ごとの 担当者が原則、手渡しで食事を届け、顧客の健康状態や安否にも留意しているので、公共性の高い事業でもあると思っています。

社会とのつながり保つ

宅食事業者の検索サイト「配食ねっと」を運営する遠藤直樹さん
 初めて宅食サービスを利用する人は「お試し」のつもりで複数の業者の味比べをしてみましょう。
 電話やインターネットで申し込めるので、利用する本人に限らず、離れて暮らす家族が祖父母にプレゼントする感覚で依頼するのも良いと思います。一人暮らしだった私の祖母も、88歳で亡くなるまで宅食の利用者でした。1人分だけ作る手間は大きく、炊飯時の火事や事故も心配でした。配達の人との交流も生まれますから、独居の高齢者でも、社会とのつながりを保つのに役立つ面があります。

市場規模 9年で1.7倍に

日常の食事を提供するサービスは、高齢化を受け、需要の増加が見込まれている。
  矢野経済研究所の予測では、外食チェーンやピザなどの宅配を除いた、主に高齢者向けの専門業者による「在宅配食」は2015年の市場規模が775億円に。 06年には推計463億円だったため、9年で約1.7倍に拡大する。本格参入した外食産業などには、さらに大きな伸びを予想する指摘もあるぞ。
 宅配が重宝されるのは、遠方に車で買い物に行くのが難しいお年寄りの世帯が増えるからじゃ。経済産業省の推計では、こうした「買い物弱者」は全国で600万人に上る。在宅配食は、その支援策でもあるんだ。

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