バルサ、バイエルンに0-4で完敗……。露呈した“メッシ・システム”の限界。
バイエルンの選手がピッチの上で抱き合う中、バルセロナの選手はうつむき加減で、とぼとぼとロッカールームへ歩いていく。
対照的な両チームの選手たちの頭上、アリアンツ・アレナのスコアボードには4-0という文字が輝いている。
チャンピオンズリーグ準決勝1stレグの結果は、恐らくは誰も想像していなかった大差に終わった。
フィジカル、スピード、高さ、運動量、そして采配――。すべてにおいてバイエルンが上回る、記念碑的な圧勝だった。
大勝を生んだ最大のポイントは、バイエルンの非ポゼッション時の中盤の守備にある。
最前線のマリオ・ゴメスは中盤まで下がり、“スタート地点”ブスケッツへのボールを制限した。シュバインシュタイガーはシャビに、ハビエル・マルティネスはイニエスタにぴったりとつき、時間とスペースを与えない。
ブスケッツ、シャビ、イニエスタの3人に時間とスペースを与えず、後方のピケとバルトラに持たせる――。方針は徹底されていた。
ガチガチに固められた中盤にバルサは出しどころを見つけられない。選択肢はCB(ピケ&バルトラ)に戻すか、サイドバックへの横パスだけ。そしてこの展開はほぼ90分間続くことになる。
■バルサの攻め手を完全に断つことに成功したバイエルン。
開始2分とたたないうちに、早速ロッベンがエリア内に入りシュートを放つ決定機を作り出している。バイエルンは中盤での激しいプレスからボールを奪う
と、リベリーとロッベンの個人技を絡めながら時間をかけずに縦へ攻めた。横や後方へのパスを繰り返し、探り続けたバルサとは好対照だった。
先制点は、前半25分。高さに不安を抱えるバルトラの後方のスペースを狙って得たCKからの流れを、ダンテが高さで競り勝ち、ミュラーが決めたもの。前半は1点のみに終わったが、バイエルンの優勢は明らかだった。
際立ったのはハビエル・マルティネスの存在感だ。激しさと読みの鋭さで対面のイニエスタを1対1で完封し、中盤中央で起点を作らせなかった。90分間試
合から消えていたメッシ以外で中央からの崩しが期待できるのは、現在はイニエスタだけだ。そんなイニエスタを消したことで、バイエルンはバルサの攻め手を
完全に断つことになる。
両ウイングの献身も光った。リベリーはダニエウ・アウベスが上がると自陣深くまでついていき守備でも貢献。反対サイドのロッベンも同様だった。
後半に入ってからも趨勢は一向に変わらない。バイエルンは高さを上手く生かし、CKとクロスを繰り返した。2点目も再びCKから高さで競り勝ち、中でマリオ・ゴメスが押し込んでいる。
■後半になっても変わらないバイエルンの運動量。
スコアが2-0となると、バイエルンはさらに勢いに乗り、バルサは意気消沈する。ロッベンは右サイドから中央へ、するすると楽しむようにドリブルで仕掛
けて決定機を作っていく。ドリブルにキレがなく、ボールを持ってもすぐに複数の相手に囲まれたメッシとの差は明らかだった。
2-0とリードした段階で前線を1人減らし、中盤にルイス・グスタボを入れて守備をさらに強化するという、ハインケスの明確な采配も光った。
バルサを上回るほどのワンタッチでのパスワークも目立ったが、それよりも評価すべきはバイエルンの運動量が後半になってもほとんど変わらなかったことだ。
常に攻撃の姿勢を保ちながら、守備においてもこのレベルのインテンシティを貫くことのできるチームは、現在の欧州ではバイエルンくらいだろう。左サイドのアラバの突破から生まれた4点目は、走り続けることのできる現チームの強さを表している。
いくつかのメディアは、ファウルやオフサイドなどがあったとしてバイエルンの4点中3点は無効だとレフェリングを批判しているが、バルサの選手もエリア
内でハンドをした場面があった。確かにレフェリングは不安定だったが、それは結果を変えるほどのものではない。そんな判定を抜きにしても、バイエルンの完
勝だったと言っていい。
■守備に走れないメッシの空けるスペースが致命的に。
個々のコンディションの良さは特筆すべきで、選手たちは課されたタスクをしっかりとこなし、かつ攻撃面であらゆる形で決定機を作った。何よりも上昇気流
に乗っている勢いを、バイエルンからは感じることができた。2013年に入り、緩やかな下降が続くバルサとは対照的でもある。この成長曲線の傾斜角の差
は、4点という差を生むことになった。
さてバルサである。敗因はひとつではないが、この大一番で目立ったのは、ビラノバ監督の采配ミスだ。
ほとんど動けなかったメッシを90分間フル出場させ、明らかに機能していないにもかかわらず選手交代もシステム変更もできなかったのは、現在のバルサと指揮官の限界を感じさせた。
ビラノバはPSG(パリサンジェルマン)との準々決勝2ndレグでも見せた、メッシが与える影響力の大きさと一瞬のひらめきに期待したが、コンディショ
ンが万全ではない彼はプレスをかけられない。いくらその隣でペドロ・ロドリゲスとアレクシス・サンチェスが守備に走れど、メッシが空けるスペースは致命的
となった。
高い位置からの守備ができなければ、このメッシ・システムは機能しない。さらに攻撃面でもまったくキレはなく、低い位置での無難なパスやボールロストを繰り返すだけだった。
■ハインケスの交代とは好対照だったビラノバの采配。
3点目は象徴的だ。メッシは対面のリベリーのドリブルにバランスを崩し地面に倒れた。リベリーはそこから独走し最後にロッベンがゴールを決めた。
そんな状態にもかかわらず、ビラノバは選手交代をしなかった。ハインケスが完璧なタイミングで意思のこもった明確な交代を続けたのとは大きく異なっていた。
ダビド・ビジャ、セスク・ファブレガス、チアゴ・アルカンタラという、状況を変えられる駒を有しながら、メッシ依存を振り切ることができなかった指揮
官。スペインには『グアルディオラならもっと早い段階で交代やシステム変更を行なっていたはず』との声もあるが、そう言われても仕方がない。ひとりの巨大
な存在に期待をかけるあまり、その他の部分が見えなくなっていたのではないか。
この試合で唯一バルサが上回ったのは63%という“無意味な”ボールポゼッションだけだ。バックパスと横パスを繰り返したことで生まれたこの数字は、中盤より前に進めないバルサの悲しい現実を示している。
■今度はバルサが他から学ぶ時期にさしかかっている。
この4-0により、バイエルンの決勝進出はほぼ確定したと言っていい。カンプノウで攻めなければならないバルサの裏を器用につくだろう。
試合後、メッシは「2ndレグに全力で挑む。でもダメなら来年を考えるだけだ」と語った。とても静かに、あきらめの雰囲気すら漂わせながら。
近年、バイエルンは指標としていたバルサを目指しながら、学び、時に敗れ、少しずつ階段を上がっていった。4-0と完勝を収めたこの日は、目標に追いつき、ついに追い越した記念すべき日でもある。
奇しくもこの日、マリオ・ゲッツェの来季バイエルン入りをドルトムントが発表している。さらに選手層を厚くしたバイエルンは、かつてバルサを世界の頂点にひきあげたグアルディオラと共に、これから一時代を築くだろう。
メッシ依存からどう抜け出すのか――。高さの問題に、監督の采配など、問題は山積みだ。時は経ち、今度はバルサが他から学ぶ時期にさしかかっているのだ。
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